※注意
ハンとギャビが「コナよこせ!」「やらん!」でわーぎゃーしてるのが書きたかっただけで後全部蛇足なんです。




一発の銃声が聞こえた。




デトロイトに根城を置く10代20代の若者中心に構成された中堅のギャング団のガサ入れで銃撃戦になったのは想定の範囲内の出来事だった。ただ彼らが入手していた武器の数が事前の調査より多かったことが今回の事件を大きくすることになった。
警官も何名か負傷者が出たようだが詳細はまだ分かっていない。

ハンクが追っていたギャング団の一人である若い男が息を切らせて廃屋の階段を駆け上がる。
しめた、とハンクは思った。
外に逃げ出されれば若い男の脚力に負けていたかもしれない、だが建物の上階へ逃げればやがては逃げ場を失い袋のネズミになる。
案の定、建物の最上階の一室に迷い込んだ男はそこで逃げ道を失った。
少し遅れて息を切らせてハンクが追い付いた、「警察だ!武器を捨てろ!」男の背に向かって銃を構え恫喝する。
追い詰められた男は一旦は諦めて武器を手放すかに思えた。
一瞬の沈黙があって次に男が取った行動は予想外だった、いきなり振り返って銃を持った手を振り上げるとハンクに向かってがむしゃらに銃を発砲した。
咄嗟に避けたが一発の弾丸がハンクの右ふくらはぎをかすった。だがそれだけだった、次の瞬間ハンクの銃から放たれた3発の弾丸のうち一発ははあやまたず男の心臓を打ち抜いた。
それで終わりだった。
男は倒れ、ハンクもまた弾丸に抉られた足をかばってその場に座り込んだ。
残りの弾数は当然数えていたが危ないところだった、予想外の反撃を食らって弾を無駄に消費した、ハンクのシグはホールドオープンして弾が尽きたことを示していた。踏み込んだときに始まった撃ち合いで予備のマガジンも尽きていたから本当にギリギリだった。

そこにハンクの後を追ってか足音が聞こえた。

コナーかと思ったが現れたのは予想に反してギャビンだった。
室内の様子を素早く確認したギャビンは脅威がないと分かると構えていた銃をおろした。
うつ伏せに倒れ伏した男の手から拳銃が零れ落ちていた。男に近づくとそれを足で軽く蹴って安全な場所まで追いやる。
そしてハンクを振り返った。
「なんだよ、くたばってなかったのか、悪運の強えおっさんだな」
「おかげさんでな」
ギャビンの皮肉に皮肉で応えると銃弾がかすったふくらはぎがずきりと痛んだ。さして大きな傷ではないが深く肉が抉れている。支えなしで立つのは今は難しそうだ。またコナーが必要以上に大騒ぎするだろうなと思った。
「しかしまあ派手にやったもんだな」
「まあな」
ハンクは何でもないことのように答えたが、実際には遮蔽するものが何もない狭い空間で撃ち合いになるのはまずい状況だった、相手がほとんどずぶの素人だったとはいえ。
まさか追い詰められた男が銃を取るとは思わなかった、大人しく投降していれば命まで落とさずに済んだというのに。
「おいハンク、あんたの銃は?」
「見ての通り弾切れだ」
ハンクは床に座ったままホールドオープンしたシグを掲げて見せた。
「そうか、丁度いい」
ギャビンはそういうと自分のグロックをホルスターにしまい、負傷したハンクを助け起こすでもなく救助を要請するでもなく鑑識が現場検証に使う手袋をジャケットから取り出して手にはめた。
「何してる?」
ギャビンの奇妙な行動にハンクが疑問符を飛ばす。
次にギャビンがしたのはさっき蹴った男の銃を手袋をした手で拾い上げることだった。
マガジンを抜いて弾が2発残っていることを確認し、本体に戻すとコッキングレバーを引いて薬室に弾を装填する。
そして銃を構えるとその銃口をハンクに向けた。
「……何してる?」
もう一度同じセリフを繰り返した、ハンクは鬼胎が膨らむのを悟られないように努めて冷静を装った。
ギャビンは何も答えずにハンクに銃を向けたまま唇の端を釣り上げた。




「おいコナー」
DPDの地下室にある古い紙の資料が納められた資料室に捜査報告書が入った箱を返して戻ろうとしていたコナーは突然呼び止められた。
最近この手のアナログ資料のデータベース化を仕事の合間に任されているコナーはこのほとんどひと気のない資料室を一人行ったり来たりしていた。
あまり重要でも必要でも無いような作業だったが人間が紙の資料とにらめっこしながら逐一打ち込むよりアンドロイドがやった方が断然早くて正確だ。ただそれだけの理由だった。
声の主が誰かはすぐに分かったがそれが控えめに言ってもあまり好ましい人物ではなかったのでコナーは内心溜息をついた。
この人に呼び止められてろくなことになったためしがない。
「はい?」
内心げんなりしながらも悟られないように努めて明るく返事をして振り返る。
「気の抜けるようなツラで返事するんじゃねえよ」
案の定そこにはギャビンがいた、腕組みをして不機嫌そうな顔でコナーを睨め付けていた。
「なにかご用でしょうか?リード刑事」
コナーはあくまで友好的な態度を崩さす軽く首を傾げ笑顔で応えた。
「用がなけりゃ誰がお前なんかに声をかけるかよ」
ただでさえ愛想がいいとはいえないスカーフェイスをさらに険しくして吐き捨てるように言う。
そしてジャケットのポケットからUSBを取り出してコナーに見せつけるように掲げてみせた。
「今朝押収したアンドロイド用のドラッグプログラムだとよ」
「それが?」
「察しが悪いな、最近出回り始めたばかりなんでまだ現物もほとんど押さえられてない品だ、調べるように言われて預かった、こういうのはお前の得意分野だろ?」
「ははあ」
コナーがまた気の抜けるような返事を返した。
「つまりそれの分析を僕にやれってことですね」
「分かってんじゃねえかプラゴミ、さっさとしろよ」
「そうは言われましても……」
コナーは言いよどんだ。
分析しろと言われてもまさかコナー自身の体で試すわけにもいかない、違法プログラムの解析というなら専門の部署がやってしかるべきだ。
「それは僕の仕事の越権だと思われますが」
「出来るのか出来ないのかどっちだ」
「どっちと言われれば……まあできますけど」
「なら話は早い」
ギャビンは野生の狼を思わせる容貌でにやりと笑うとコナーに近づき、その腕を取ると先ほどコナーが出てきた資料室に半ば引きずり込んだ。

埃とカビ臭い資料室でギャビンとコナーは向かい合っていた。
「直接読み込めるんだろうな?」
「はい、首の後ろにあるポートに差し込めば……」
コナーはあまり乗り気ではなかった、なんとなしに嫌な予感がした。第一人目のないところでやらされるというのがどうにも落ち着かない。
「じゃあやれよ」
ギャビンは強引にコナーの手にUSBを押し付けた。
どうも断れそうにない。
コナーはしぶしぶ自らのうなじに指を当てた、すると音もなく流動皮膚が部分的に解除され白いプラスチックの素体が覗く、シュっと軽い音がして首の後ろが開いた。
「解析するだけですよ?危険を感じたらすぐにやめますからね?」
「ごちゃごちゃうるせえな、さっさとやれよ」
横柄な物言いにコナーは唇をへの字に曲げて聞こえないほど小さく「んもう」と呟くと先ほど受け取ったUSBをポートに差し込んだ、正直気が進まない。このウィルスがどういった代物か見当がつかなかったし、いきなりアンドロイドの体を通していいものか分からなかったから。

バチっと脳内に火花が飛び散るように感じた。プログラムがコナーの人工の脳に流れてくるやいなや突然意識が途絶えた。
途端にコナーの体が崩れ落ち、膝立ちになったまま停止した。
目は開いているものの焦点を失いどこも見えていないように虚ろだ。
とはいっても蟀谷のLEDは変わらず穏やかな青色を示していたし死んでいるわけではないのは明らかだった。
少しの間そんなコナーの様子を黙って見守っていたギャビンが腕を伸ばしコナーの体を引っ張り上げると思ったよりも簡単にその体は付いてきた。なるほど、このプログラムはアンドロイドの自由意志を奪ってしまうものらしい。
噂に聞いた通りだ。
メモリーにもその間のことは残らないときた、なんておあつらえ向きだ。不自然な空白の時間が生まれるのはどうしようもないらしいが。
ギャビンの指がコナーのネクタイにかかる、軽く引っ張るとそれは簡単にほどけた。そして床に座るように肩を押して促すとその身体は素直に従った。
上半身を押し倒すように横たえさせてもなんの抵抗もなかった。
「……プラスチック相手にベッドなんて物は要らねえよな……」
ギャビンは独り言ちると横たわったコナーの上にのしかかり口付けた。
想像していた以上に柔らかい唇の感触に肉体的な焦燥感が湧き上がるのを感じる。
そして清潔そのもののシャツのボタンを外していくと白く滑らかな肌が露わになった。
その肌に手のひらをすべらせると人間の肌そっくりの、そして思った以上にさらりとした心地よい手触りが伝わった。
実のところギャビンはアンドロイドの肌にこれほどじっくりと触れるのはこれが初めてだった、なるほど、世の中の馬鹿どもがセクサロイドに夢中になるわけが分かる、人間に極めて近しいながら人間よりよほど美しい存在、それがアンドロイドだ。
以前からコナーの体に興味があった。どこまで忠実に再現されているのか。
滑らかな肌に何度も口付けを落とし、思う様撫で回した、そしてベルトのバックルに手を伸ばす。
すると突然コナーの両手が持ち上がってギャビンの頬を包み込むようにそっと触れた。
動かないとばかり思っていたので一瞬ぎょっとしたがそれは拒絶の為の動きではなかった、相変わらず焦点の合わない瞳のまま目の前の人物を手探りで探ろうとするようにギャビンの顔を手で撫でる。

「ハンク?」

その口から最も気に入らない人物の名前が零れた。
「…ハンクですか?ねえ?そこにいるんですか?」
どこか不安げに尋ねる声はそれでも奇妙に思えるほどの甘さが込められていて、ああそうかとギャビンは納得せざるを得なかった。
自分に触れていいのはあの男だけ、そう言われている気がした。
そうか、ならいいだろう。
「……そうだ、俺だコナー、お前のハンクだ」
頬に添えられた手に自分の手を重ね、そう言葉にすると胸の奥をじわりと毒が蝕むような感覚がした。
「ハンク」
だけどコナーが見たこともないくらい幸せそうに微笑むから、こんなコナーは知らない、見たことがない。

―ああ、でも、なんてきれいなんだろう。

ギャビンは引き寄せられるようにコナーにもう一度、今度は深く口付けた。




突き付けられた銃口が大きくて深い闇のように見えた。
それは僅かな間だったかもしれない、沈黙を破ってギャビンが口を開いた。
「今ならあんたを殺しても誰にも疑われない」
「……何だと?」
ギャビンはハンクを殺すつもりらしい、でも何故?嫌な予感がした。確かにこの男とは元よりあまり友好的な関係ではなかった、というより一方的に嫌われていただろう。それにしても殺したいと思うまでに憎まれているとしたら。
「あんたが死ねばあいつは俺のもんだ」
「あいつだと?」
「決まってんだろコナーだよ」
予感が的中した。
それはハンクには分かり切っていた答えだった。ギャビンのコナーに対する執着心はよく知っていたし、それが愛欲と呼ばれるものの裏返しであることも薄々は感付いていた。
だが気が付かないふりをしてきた。
ハンクはコナーを愛していたしコナーもハンクを愛していると言った、だからギャビンのつけ入る隙などなかった。
ないはずだった。
コナーに至っては全くギャビンの感情には気付いてなかったようだがそれは仕方がない、まだ情緒の幼いコナーにそんな人間の心の機微を理解しろという方が酷だ。
消極的なようだがハンクはギャビンが諦めてくれるのを心のどこかで願っていた。
まさかこの男がこんな極端な真似に出るとは思ってもみなかったからだ。だがどうやら読みが甘かったらしい。いやな汗が背中を伝うのをハンクは感じた。
さて、どうする。
「……俺が死ねばコナーがお前のものになると?そうとは限らねえだろうが」
「やってみなけりゃ分かんねえだろ」
そう言ってギャビンは軽く肩をすくめて見せた。一理あるとは思ったがそんな理由で殺されてやるわけにはいかない。
ハンクは考えを巡らせた、自分は軽傷とはいえ足を負傷している、圧倒的に不利だ、そうでなくとも完全に狙いをつけられた銃口から逃げるのは不可能だろう。今下手に動けば即風穴を開けられることは想像に難くない。
なら何とかして言いくるめなければ、時間さえ稼げれば応援が来るかもしれない。
「ああそうだ、知ってっかハンク、俺はコナーを抱いたことがあるんだぜ?」
出し抜けに放たれたその言葉にハンクの頬がぴくりと動いた。
こいつは何を言っている?
そんなはずが無いと思った。コナーが自分を裏切るはずもないし自分に対して嘘を付き通せるほど器用でもないのをハンクが一番よく知っている。
ハッタリだと思った。混乱させるための。それにしては堂々とした態度を崩さないギャビンに不穏なものを覚えた、何でこいつはこんなことを言い出した?
「あんな色気の欠片もねえプラスチックなんかヤッても面白くもねえだろうと思ったけど案外可愛かったな、あいつ俺のことをあんただと信じ込んで可愛らしく鳴いてたよ、ヒヒッ、あんたの仕込みがよっぽど良かったのかね。なあハンクあいつ脚の付け根に三角形のほくろがあるよな、あんたなら知ってるだろ?あんなもんまで人間らしく再現するとは恐れ入ったよ、いや、感心を通り越して不気味だな」
ギャビンが喉の奥で笑った。
それを聞いたハンクの顔色が変わる。そのことを知っているのは他ならぬ自分かCLのエンジニアくらいのものだろう。
「てめえ……コナーに何をした?」
ハンクは噛みしめた歯の間から唸るように言葉を発した。
「別に?ちょっとばかしアンドロイド用のドラッグってヤツを試してみたんだよ、面白そうだったから、まあ知らなくて当然だな、アレは一時的にアンドロイドの記憶を吹っ飛ばすらしいしコナーのやつも覚えてねえんだろ」
少しも悪びれた様子もなくギャビンは下卑た笑いを浮かべていた。
「てめえ……」
なんて卑怯な男だ、ますますこんな奴に負けるわけにはいかない。
精一杯の侮蔑と威嚇を込めてギャビンの生意気な面を睨みつけた。
しかし銃を構えたギャビンの手がわずかに震えていることに気付いた。
さっきまで優位に立ってハンクをせせら笑っていたギャビンの表情から愉悦が抜け落ちた。
「……あいつ…ずっと腕の中で……」
ギャビンは急に痛みを堪えるような表情になった。
「……あんたを呼んでた、目の前にいるのは俺なのに……」
ともすれば泣き出しそうな顔だった。
ハンクはゾッとした、このギャビンの情緒の不安定さはどうしたことだ。

「ハンクハンクハンクって!馬鹿の一つ覚えみたいにずっと!ずっと聞かされてた!あいつは!最後までお前のことしか見えてなかった!」

気が触れたようにギャビンが吼えた。
彼を狂わせる理由は強烈な嫉妬だった、だがなんて幼稚な感情だろう。

ギャビンの理不尽な怒りの理由に一片の同情も出来ないがどれほど悔しい思いをしたかは理解できる。
だからといって殺されてやるわけにはいかなかった。
「……それでお前は泣きべそかいてたってわけか?ざまあねえな、コナーがてめえのものにならなかったからって八つ当たりかよ?惨めなもんだ、それでこんな真似までしでかして、どこまでもちっぽけな男だなお前は、俺を殺したってそんな男にコナーがなびくもんかよ」
嫉妬に歪んだギャビンの顔は今は眉間を中心にしわが寄り悪鬼さながらの表情になっていた。気の弱い者が見たらそれだけで腰を抜かしただろう。
「黙れクソジジイ!俺だって欲しかったんだ!ずっとずっと欲しかった!てめえを殺せばチャンスは回ってくる!」
引き金にかけた指に力が込められるのを見た。
ハンクの心にはっきりと死に対する恐怖心が芽生えた、ゴクリと音を立てて口の中の唾を嚥下する。
「……俺を殺したら、コナーが悲しむぞ」
ハンクは精一杯の威嚇を込めてギャビンを睨みつけた。
「はっ、強気だな、ずいぶんと愛されてる自信がおありのようで!」



一発の銃声が聞こえた。



ハンクの後を遅れて追ってきたコナーがその音にはっとして上階を見上げる。
「ハンク!?ハンクー!」
怒涛の勢いで廃屋の階段を駆け上がり銃声の聞こえた最上階を探した。
「ハンクー!どこですかッ!ハンク!ハンクッ!」
必要以上にオーバーアクションでハンクを探し走り回るコナーに後ろから声がかけられた。
「うるせえよ、お前は本当に落ち着きの無いやつだな」
そこにいたのはギャビンに肩を借りて立つハンクの姿だった。
「ああっ!ハンク!よかった無事だったんですね!」
コナーが全身で飛びかかってきたのでハンクは体をひねってひらりとそれを避けた。
ハンクに避けられ勢い余ったまま転倒しそうになったコナーが寸でのところで体勢を立て直していた。
「酷い!ハンクなぜ避けるんです!?」
「避けるわ!」
成人男性と同じ質量のものに全力で体当たりされたら最悪死ぬ。
「遊んでんじゃねーよプラゴミ」
二人のやり取りを見ていたギャビンが呆れたような声を出した。
「あっ!なんてことだ!ハンクが怪我をしているッ!大変だーッ!救急班!救急班はどこだー!」
一人大騒ぎするコナーを放って二人は階段を下りた。
廃屋の外にはコナーが呼んだらしい応援が駆け付けていた。





コナーは知らなかった。
最後に聞こえた銃声は確かにギャビンがハンクに向けて撃ったものだった。
だがその弾丸はハンクには当たらなかった、ギャビンが銃口を地面に向けて発砲したからだ。
そして残り一発を残した銃を放り捨てた。
それでやっと全身を緊張させていたハンクは忘れていた呼吸を取り戻した。
「……どうした?殺さねえのか?」
「やめだやめだ、馬鹿馬鹿しい」
ギャビンが両手を上げて忌々しげに吐き捨てた。
「この俺がプラスチック野郎の為に殺人だなんて笑えねえ冗談だ、はー、あほらし」
ハンクは一瞬で目の前が真っ赤になるほどの怒りを覚えた。冗談?冗談だと?人を殺しかけておいて冗談で済ませる気か!
「ふざけんな!てめえ!俺がこの件を上に訴え出たらどうするつもりだ!」
ハンクの怒りを真っ向から受けてもギャビンは動じなかった。
「あんたはそんなことはしないさ、そうすりゃ俺もあんたの大事なコナーの恥ずかしい画像を公にしなけりゃならなくなるからな」
そう言っていつもの犬歯を剥いた憎々しい笑みで自分の携帯端末を手に軽く振って見せた。
ギャビンは見せなかったがそれがコナーにドラッグプログラムを仕掛けた時のものだと分かった。
「このクソ野郎が……」
本気でギャビンが憎く思えた。
殺されなかったのだって本当にただのちょっとしたギャビンの気まぐれだ、こんな奴に命を救われただなんて冗談じゃない。
「否定はしねえよ、何とでもいえばいい」
ギャビンがハンクを立ち上がらせるのに当たり前のように手を貸そうとした。
ハンクは一瞬その手を振り払おうかと思ったが、やめた、張り合うのはそんな些細なことでじゃない。
「だがいいかハンク、俺はいつだってあんたを殺せるし殺る気も嘘じゃねえ、忘れるな、俺は諦めねえぞ、いつか奪い取ってやる」
「ふん……」
ギャビンに肩を借りながら痛む足を引き摺って歩いた。
「ハンクー!」
バタバタと走り回る音とたった今二人の男が命懸けで取り合いをしたアンドロイドの張り上げる場違いな声が聞こえた。
「やれるもんならやってみろ、俺だってその時が来ればお前を躊躇なく殺してやるからな」
ハンクが低く呟いた。
ギャビンは愉快でたまらないとでもいうようにくっくっと笑った。



END