狭山・ラドヴィグ・J・エリコ中尉の日記 AM 02:00 作戦コードX-129 錦織邸の制圧はすみやかに遂行された。 邸内に常駐していた使用人の数も事前に入手した情報通りで、突入から僅か数分で全員射殺、 警護に当たっていた警備員たちも、それ相応の訓練を受けた者たちとは言えプロの軍人に適うはずも無く、邸内は死骸があちこちに転がる悲惨な様相を呈していた。 私は大柄な部下の男二人を連れてある人物を探していた。 錦織邸の内部構造はあらかじめ頭に叩き込んである、私は迷う事無く目的の人物のいる部屋に到着した。 私は部下二人に指で合図し、目的の部屋のドアの両側に待機する。 ドアノブをそっと回す。 どうやら鍵がかかっているようだ、数十秒で我々に回線を切られたとはいえ警備システムが作動し警報が鳴り響いたのを聞いていたのだろう。 その後響く銃声と悲鳴、それもすぐに静かになった。 本来ならば見知った誰かが自分のところに「心配ありませんもう大丈夫です」と言いに来るはずが誰も来ない、その上邸内は停電したままだ、となれば、大方私の探す人物は大方、今頃は怯えて部屋の隅に小さくなって外の様子に気を張り巡らしていることだろう。 まず、安易に突入したとて反撃を食らう可能性はゼロに等しかったが注意を怠ってはいけない。 私は部下にドアをぶち破るよう指示を出して援護に回った。 大男二人の蹴りが炸裂し、ドアは蝶番が割れ半壊するようにして轟音と共に開かれた。 私は銃を構え、素早く部屋の中に入った、肩口に構えたサーチライトに美しいレースのカーテンや可愛らしいビスクドールやぬいぐるみ、見るからに高級そうなピアノに、天蓋付きベッドなどが次々と浮かび上がった。 私は部下にその場を動かないように指で命じ、耳を澄ました。 数秒おいて、私の持ち前の聴覚が捉えた。 私のものでも部下のものでも無い、小さく荒い怯えたような呼吸音を。 ベッドの下か…。 まあおおむね予想はついていた、ベッドの下か、クローゼットの中だろうと。 「お嬢様」の考える逃げ場などその程度でしかあるまい。 私は再び部下に指で指示を出した、お嬢様がこの下にいらっしゃることと、速やかにベッドの下から目的のお嬢様を引っ張り出すようにと。 まず必要は無いように思われたがセオリーに従い私は正面からベッドの下に銃口を向けつつ部下二人にGOサインを出した、 今だ。 部下の腕がベッドの下に素早くもぐりこむ。 「きゃっ、いや!離してぇ!」 悲痛な叫び声と共にベッドの下から男二人に腕を掴まれ引きずり出されたのはこの錦織銃器製造の社長令嬢、錦織沙代里だ。 私が探していた人物とは彼女である。 屈強な男達にか細い腕を掴まれ、無理矢理立たされた彼女の足元に、彼女と一緒に出てきた大きなウサギのぬいぐるみが転がる。 なんと可愛らしいことだ、思わず口の端が吊り上がる。 彼女は怯えてウサギのぬいぐるみを胸に抱きしめ、どうかどうか見付かりませんようにと一生懸命に祈っていたのか。 たしか彼女はもう16歳のはずだが大方甘やかされて育ったのだろう、そうした幼児性が抜け切ってないようだ。 だが残念ながらそれは悲しくも無力な祈りだったようである。 「錦織銃器製造の代表取締役・錦織孝三の娘、錦織沙代里だな」 私は彼女の顔にライトを向けながらやや威圧的な口調で訊ねる。 怯えきった娘はライトの光のまぶしさに目を細め顔を背け震えながらコクコクと何度かうなづく。 その時、一時停電していた邸内の予備電源システムが作動したのか明かりが一斉に点いた。 私は無用になったライトを切ってまともな明かりの下で沙代里嬢の顔を見た。 資料で事前に見ていたこの娘に間違いない。 「錦織 沙代里」 国内最大手の錦織銃器製造の社長令嬢にして屈指の名門女子高に通う16歳。 資料写真で見てなかなか可愛らしい娘だとは思ったがなるほど、こうして実物を見てみるとより一層可愛らしいご令嬢だ。 ミルク色の肌に黒目がちの瞳を長い睫毛が隙間無く縁取り、ほんの僅かに上向きな形のいい鼻がアクセントになって、さくらんぼ色の唇と長いストレートの黒髪が彼女の未成熟な色気と清純さを見事に演出している。 だが可哀相に、怯えきった沙代里嬢は相変わらず無骨な男たちに腕を捕らわれたまま身も世も無い様子でガクガクと震えていた。 私が構えていた銃を下ろすと彼女も少しだけ安心したのか恐怖に忘れていた呼吸を取り戻した。 「あ、あ…、あなたたちは誰なの?私を、どうする気?父様や母様は…」 怯えきって口も利けなのいかと思ったが意外だ、まあそれは突然の不審な侵入者とはいえ私が彼女と同じ「女」だからかもしれない。 そのことがある程度警戒を解くきっかけになったのだろう。 「ご安心をいまここで殺したりなどという野蛮な真似はいたしません、お父上とお母上のことはご心配なくお嬢様、むろんご無事ですし今、お二人の元にお連れいたしますから。ああ、ただ使用人の方々には申し訳ありませんが皆さん我々の手で始末させていただきました、ですがお三方にはまだ用がありますので」 使用人全員を殺害した、という私の言葉に令嬢の黒目がちな眼が大きく開かれた、今度こそ言葉を失い、今にも失神しそうな顔色だ。 そんな哀れな体の美少女が彼女を捕らえている部下たちの加虐心を擽ったのか、部下の一人が「あの…狭山中尉…」と私に向かって期待を込めた声で機嫌を伺う、 私はその意味を即座に理解した。 全く…これだから男という生き物は…。 だが、しかし部下に慰安を与えるのも上官の仕事だ。 私はため息を付いて首を左右に軽く振った、そしてベルトからナイフを抜き出すと沙代里嬢の前に立った。 このナイフで切り刻まれるとでも思ったのか、令嬢は「ひ…」と喉の奥に引っ掛かった悲鳴を僅かに上げてすくみ上がった。 そのナイフの切っ先が喉元に近づけられると今度は突然男達の腕を振り払おうと暴れだした。 「いやあ!殺さないで!!」 命の危険を感じて渾身の力で暴れる人間と言うのは驚くべきものだ、たとえこんな小娘でも途方も無い力を出すことがある、ご令嬢の暴れっぷりに彼女を拘束していた屈強な二人の部下も慌てふためいてその動きをなんとか抑えようとする。 「おとなしくしていろ!殺しはしないといったはずだ!」 恫喝するように私は声を荒げた。 その言葉は我ながら迫力があり、男たちが力ずくで抑えるよりもはるかに効果があった、令嬢の動きが止まった、その隙に二人の部下が彼女の肩口をしっかりと腕を巻きつかせてほとんど羽交い絞めにしてしまった。 これでもう彼女は暴れたくとも暴れられまい。 そこで私は付け加えた「今はな」、と。 たちまち沙代里嬢の顔色が青くなる。 彼女の歯がかちかちと音を立てているのがなんとも哀れで私にとってはなかなか愉快だ、 私はナイフの切っ先を彼女のネグリジェの胸元に当てると一気に引き下ろした。 ピイィと布を引き裂く音が響く。 はらり、とネグリジェだった布が揺れて左右に観音開きに開かれる、そしてつけていた清楚なショーツも真ん中から二つに切裂かれ、腰の部分での締め付けの力を失なっただけで下着は、するりと細い足に沿って滑り落ち、ぱさ、と軽い音を立てて床に落ちた。 金縛りに合ったように動けなくなっていたご令嬢の若くみずみずしくしなやかな肢体が、年齢の割に豊かな胸が、まだ淡さの残る茂みが覆う恥丘が白日の下に晒される。 無論、令嬢の体には掠り傷一つ付いていない、我ながら見事な腕前だと感心する。 「や…きゃああああっ!」 無骨な男たちのいる前で突然服を切裂かれ肌を露に晒すことになってしまったご令嬢の悲鳴が一瞬の間を置いて響いた。 「あまり時間が無いぞ、さっさと済ませろ」 私は不機嫌を装ってそう言い放つとこの哀れなご令嬢が粗野で屈強な男たちに蹂躙される様を見学させてもらうことにした。 恐らくこれまで男と手も握ったことも無いような典型的な箱入り令嬢だろう彼女が泣叫びながら犯されるショーを見学するのはその実、悪い気分ではない。 だが私は決して真性のサディストではないと公言しておきたい。 軍部の中にはその名を口にするのもえげつない程のサディストが大勢いる、 その中から比べれば私はマシなほうだと信じたい。 他人の評価までは私の与り知るところではないからどうでもいい。 そう…、最も得体の知れない連中といえば例えば今回特例で行動を共にしている「特殊部隊」の連中がまさにそうだ、今回もあれほど喜々として無抵抗の使用人たちの殺害を行った…たしか李遼那(リー・リャオスン)とかいう少尉や(彼のおかげで我等小隊の出番などほとんどなかった位だ)、なんでも口の利けないらしい(なんでそんな人間を現役にしておくのかも不思議だが)鳳如月(フォン・ルーユエ)准尉とかいった女もそうだ、あんな薄気味悪い連中に比べればこれくらいの悪趣味なんて可愛いものだ。 ・・・多分。 後ろから一人に両肩を羽交い絞めにされ尻餅をつくような体勢にされたご令嬢を、もう一人の男がその細く白い足をつかんで無理矢理ひらかせた。 令嬢の瞳が涙で滲む、何をされるのかくらいは当然わかるだろう。 「いや、いやあ…、やめて…お願い・・・」 体中を撫で回され握り潰されんばかりに乱暴に乳房を揉みしだかれ、その痛みとおぞましさだけでも涙を振り散らしているというのに、 こんどはいきなり何の前戯もなしに開かされた足の中心にいきり立った男根をねじ込まれた。 哀れなお嬢様の女性器はその内径に有り余る男根に引き裂かれ、あまりの激痛に一瞬目を見開いて呼吸を詰まらせた、 令嬢の背中が弓なりにしなる。 続いてそこを刃物で抉られたかのような悲痛な絶叫が空気を震わせる。 「いや!いやああああああああああっやめてえ痛いよ痛いーッ!!」 おお、可哀相に。 だが部下どもは股関節が外れてしまうのではないかと危惧するほど彼女の脚を開かせてけだものの如く荒々しく彼女を陵辱している。 私がさっさと済ませるように言ったのが令嬢には気の毒な結果になってしまったようだ。 彼女の破瓜の血だか男の先走り液だかその両方だかは知らないがグチャグチャといささか淫猥というより下品な水音と聞くに堪えない野獣の息遣いが響く。 彼女を後ろから羽交い絞めにしているもう一人の男は彼女の肌を嘗め回し乳房をこね上げ、可憐な顔に舌を這わせたりして更に彼女を辱める。 …全く。 万物の霊長?笑わせるな、これのどこにけだものと差があるというのか。 いや、こんなことを言ってはけだものに失礼だ、動物とて雄が雌にプロポーズして了解を得てから行為に及ぶというのにな。 私はいささか「男嫌い」で有名であった、まあ、常日頃、こんな光景を目にしていれば嫌でも嫌いにならざるを得ないのは判ってもらいたいものだ。だからといって別に女好きというわけでもないことはハッキリと明言しておきたい。 私のセックスの対象はごくノーマルだ。 そうこうしている内に彼女を犯していた部下の一人が男根を彼女の最奥まで突き入れたまま低いうめき声と共に身体を震わせた、彼女の中に射精したようだ。 「ひぃ…」という沙代里嬢の絶望的な短い悲鳴が聞こえた。 「あぁ…あぁう…いや…いやだよう…母様・・・母様助けて…」 犯されたショックに加え中に出されたことがよほど堪えたらしい、瞳は焦点を失いまぶたが半分下がり、ほとんど失神状態だ。 だが彼女に休息などという慈悲は与えられない、待たされてウズウズしていたもう一人の部下がいる。 令嬢はショック状態のままそれを立て直す機会も与えられず再び犯され始める。 「…うあ…やめてぇ…お願い…」 涙に濡れた哀れな美少女の絶望が、私の加虐心に火をつける。胸が高鳴り、口の端が愉悦にさらに吊りあがる。 …やはり私も、同じ穴のムジナなのだろうかな? 予定より数分遅れで私は令嬢を引き連れて錦織邸の敷地内にある銃器の試作開発を行っている研究所で本隊と合流した。 場所は研究所の中の試作品を一から作る工場だ。 「遅くなりました」 「ご苦労だった、狭山中尉」 今回の指揮を取ったのは私の上官ジョンソン大尉だ。 それから、私の属する小隊のメンバー十数人。 それから…先ほど私が散々心の中で悪態をついた「特別部隊」の面々、人柄的には嫌いじゃないが(というより嫌いになるほど良く知らないだけだが)その部隊を率いるジーメンス大尉、それからその部下の遼那少尉に如月准尉。 それらが拘束された錦織夫妻を取り囲んで待っていた。 「令嬢は無事捕らえたか」 「はい、ここに」 そう言って私が目で二人の部下に顎でしゃくって合図をすると手際よく二人が令嬢を全員の前に引き出す。 その令嬢の姿に一瞬動揺の声が上がる。 それもそのはずだ、美少女で名を馳せた錦織財閥の令嬢がほとんどボロキレになったネグリジェを申し訳程度に体に纏わり付かせ、肌も露に引き立てられてきたのだから。 おまけに彼女の白く細い両足には破瓜の血と男達の精液の混じったものが忌まわしくも美しい彩りを添えている。 彼女が何をされたのかは一目瞭然だ。 「・・・沙代里!!」母親が悲鳴に近い声を上げる。 「貴様ら…娘に何を…!!」父親の怒りに満ちた怒号が響く。 こんな姿を、たくさんの見知らぬ者達に見られる恥辱、両親に知られる惨めさ、今彼女はどんな気持ちだろう。 肌を隠したくとも後ろ手に拘束されていてはそれもままならない、晒し者にされた彼女は言葉もなくただただ屈辱に涙を流し歯を食いしばり目を固く閉ざしていた。しかし喉の奥からは絶えず堪えきれないうめき声が漏れている。 「さて、錦織孝三殿」 ジョンソン大尉は沙代里嬢の両親の怒りをものともせず平然と切り出した。 「貴殿は我が軍との銃器開発においてその資金提供や密接な提携を取り交わす間柄にもかかわらず、そして我が軍が貴方の作る銃器を高く評価してその多くを納めているにもかかわらず、我等が目の上のこぶとしている反政府ゲリラどもとも取引をした、彼らが我々に匹敵する武器を持ってしまったおかげで先の国内に潜伏するゲリラの殲滅作戦で我が軍はずいぶんな苦戦を強いられてしまいました、これは立派な祖国への裏切り行為ですな」 「そ、それは誤解だ!彼らは敵対ゲリラではなくレジスタンスだと言った、取引に応じたのはあくまで彼らが国内に潜む不平分子を駆りだす為だと聞いていたからだ、決して金儲けの為に軍に敵対する勢力に手を貸した訳ではない!」 錦織孝三は必死に反論した。 「だがその結果は?」 ジョンソンが冷酷に言い放つ。 これには錦織孝三も言葉を詰まらせた、彼の思惑が本当に金儲けであったにせよ、または彼の言うように純粋なものであったにせよ結果としては軍部が多大な犠牲を払わされたのは事実である。 「…残念です、錦織氏、我々は貴方の作る銃を本当に高く評価していました」 丁寧な言葉をかけたのは今まで沈黙していたジーメンス大尉だ。 「貴方方には粛清を受けていただく必要があります」 ジーメンスが低く落ち着いた声で言葉短に彼らに死刑宣告をする。 「まずは娘からだ」 ジョンソン大尉が愉悦に顔を歪ませながら私の方を見た。 さて、これは予定していた通りのことだ、まずは娘を両親の目の前で殺し、そのあと二人も殺すと。 祖国に対する裏切り者には死の粛清を、これは鉄則であり防衛の為だ。 「やめてぇ!!娘には何もしないで!!」 娘によく似た顔立ちの、40はとうに過ぎているだろうがそれでもまだ十分に上品で美しい錦織夫人の悲痛な叫び声を聞くが、いくら気の毒でも致し方ないことだ、恨むなら浅はかな己の夫かこの作戦を命令した上司を恨むことだ。 私はだた、上官の命令に忠実に従うまでだ、軍人とはそういうものなのだ。 「いやっ!母様ぁ!」 石のように身を固くしていた沙代里嬢が母の叫びで我に帰って暴れだす。 私は二人の部下に沙代里嬢をある場所に引っ立てるよう命じた。 「助けて!!母様!!父様!!」 「娘を放して!!沙代里!!沙代里ぃ!!」 「娘には…娘だけには手を出さないでくれ!頼む!殺すなら私だけにしろ!!!」 実に美しくもかなしい親子愛だ。 だがこれはもう決められたことなのだ。 私は部下二人と令嬢に先だって試作工場にある金属を溶かす炉の階段を登った、ここは試作品を一から作るための施設工場、小規模とはいえこうした設備も整っている。 そう、実に悪趣味だとは思うが、ジョンソン大尉はこの娘を溶けた金属の中に放り込んでしまおうという心算なのだそうな。 このことは他の隊員たちにも知っていた。 ジョンソンや隊員達の目がこれから行われる残酷なショーへの期待に輝いている。 だが令嬢の両親は「…まさか…そんな…」と呟いて否定しつつも恐ろしい娘の末路を悟ったようだ。 階段を登りきると物凄い熱気に思わず顔が歪む。 今いる足場から炉の中まで、およそ高さ12メートル。 沙代里嬢もここにきて己の運命を悟ったようで、赤子のように叫び喚いて全力で抵抗を試みた。 暴れて、泣いて、なんと可哀相な有様だ、可哀相過ぎてまたも私の口の端が自然と釣りあがってしまう。 渾身の力を振り絞って暴れる令嬢をなんとかこの炉の上まで引っ張り上げてきた部下たちも、その苦労よりこれから行われる残酷なショーに期待を寄せているように見える。 「いや!いやあ!お願い…なんでも…なんでもします、だからやめて、お願い助けて!!」 部下たちが手を離すと彼女が私の足元にすがり付いて命乞いを始めた。 大方、私が女だから、もしかしたら女の優しさで慈悲をかけてくれるかもしれないと思ったのだろうか? 残念ながらそんなことはありえない、私は女でも軍人、軍人は上官の命令には絶対に従うものなのだ。 「…お嬢様、何か言い残すことは?」 私は私の足にすがりつく彼女に優しく問いかける、彼女の顔が見る見る本物の絶望に変わる。 「…いや…いやだ・・・」 沙代里嬢は首を左右に振ってガタガタと震えだした。 「いや!死にたくないよう!!父様!!母様!!助けてええええええええ!!!」 今まで何の不自由も無く、蝶よ花よと育てられてきて死など身近に感じたことさえ無いであろう令嬢の絶叫が工場内にこだまする。 今、彼女の心の中は迫り来る恐ろしい死に支配され潰される寸前であろう。 私は彼女の心中を想像し、僅かな興奮を覚える、胸が高鳴り、背中を愉悦がぞくりと這い上がる。 やはり私も同じ穴のムジナ、か。 ふと見れば、眼下でこの処刑を心待ちにして残酷な期待に歪んだ笑顔を見せる隊員たちの中に、一人、まるで母親の読んでくれる物語をワクワクしながら聞き入る子供のように純真そのものの笑顔で見上げている一人の若い男がいた。 遼那(リャオスン)とよばれた特別部隊の隊員だ。 その笑顔にはまるで邪気が無いのだ、それがかえって私に得体の知れない恐ろしさを感じさせた。 私はなんだか見てはいけないものを見た気がして咄嗟にこの男から目をそらした。 目をそらしたその先には今度は何の感情も浮かべていない如月(ルーユエ)と呼ばれた同じ特別隊員の姿もあった。 何となく、他と違う雰囲気を醸し出すこの二人が、このとき私の心に強い印象を残した。 そしてその二人の直属の上官であるジーメンス大尉はといえば、遮光ゴーグルに口元をマスクで覆った彼独特のスタイルのままだったので一体どんな表情を浮かべているか判らなかったがなんとなくあまり関心が無さそうな雰囲気を感じた。 とにかくこの「特別部隊」の連中は、私たちとはやはりどこかが違う人種なのだ、と場違いながら一瞬、思った。 だがそれも本当に一瞬だった。 すぐ気を取り直して沙代里嬢に向き合う。 「言い残すことは、無いんですね?」 彼女に優しく問う。 令嬢は破瓜の血と精液にまみれた内腿を自らが漏らした尿で洗い流した。 「お願い…助けて・・・死にたくないの…」 美しい顔を涙でぐしゃぐしゃにして令嬢がまだ食い下がる。 「では、始めましょうか」 「助けて…助けて…」 私はその駆動式足場の操作パネルに手を伸ばし、この足場が炉の真上に来るように動かした。 不気味な低い機械音を上げて足場がゆっくりと動き出す。 もう哀れな令嬢は恐怖のあまり腰が抜けたのかその場にへたり込んだまま見てて滑稽なほどガクガクと全身を震わせていた、もっとも逃げ出す気力がまだあったとて、彼女の後ろには私の部下が二人で道を塞いでいるのだが。 ガコンと僅かな振動があり、炉の真上で足場が止まった。 先ほどよりもっと熱気が強くなる。 「お嬢様、最後のお祈りは済まされましたか?」 「…ヒィ・・・ッ」 もはや彼女は死の恐怖に限界まで追い詰められていた。 「それでは、始めます」 私はうやうやしく彼女に一礼すると、部下二人に命じて彼女を再び素早く捕まえて抱え上げ、一人は上半身を、もう一人は足を支えてその彼女の身を足場の柵の向こうに差し出した。 「…ィィィ……」 この状況では暴れることも逃げることも出来ず、最早彼女の声は言葉になっていなかった。 「娘にひどいことをしないで!お願い、やめてええええええ!」 婦人の悲痛な叫びが聞こえる。 「やめろ!!私が悪かった、だからやめろ!やめてくれ!!!」 孝三氏の声も同じように必死に叫ぶ。 舞い上がる熱気と蒸気に令嬢の美しい髪が揺れる。 「…ィ、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 恐怖が絶頂に達したその瞬間沙代里嬢が叫んだ、それが合図だった。 彼女を支えていた手が離され、令嬢は炉の中に落ちていった。 一部始終を見守っていた私にはその光景がやけに鮮明にして長い時間のように思えた、美しい深窓の令嬢が1000度を超える炉の中に落ちてゆく、その悲劇的にして凄惨美とも言える光景。 ほとんど裸体に近いからだが赤く燃える金属の光に照らし出され、光彩にその身体の輪郭をハッキリと浮かび上がらせた、綺麗だった。 あたかも彼女自身の内側から光が放たれているかのように。 そして彼女の体がもっと熱い金属の海に近づくと今度は美しかった黒髪がネグリジェの切れ端が、白く美しかった肌が燃え出したのを私は確かに見た。 そしてそのまま火の光に包まれた美しい裸体が、溶けた金属の海に沈み、二度と浮かび上がることなく、消えた。 私は彼女の苦痛と絶望と恐怖に満ちたその表情を最後まで見ていた。 彼女の苦しみは一瞬だっただろう、それに私の目には長い時間に感じたが実際には一瞬に満たなかっただろう。 だが私にはそれはスローモーションのようにしっかりと目に焼きついた。 これほど美しい光景はこれまで一度も見たことが無いと思った。 あまりに惨たらしい娘の死を目の当たりにした夫妻はもはや身も世も無く絶望に泣き狂うばかりだった。 続いて今度は別の隊員に夫人が引き立てられ娘が溶けた炉の中に同じようにして放り込まれた。 夫人は娘を殺されたショックと今度は己が同じ運命を辿ることにさえいささか正気を失っていたのか、ほとんど抵抗らしい抵抗を見せないまま引き攣った笑顔のような苦悶のような表情を浮べたまま、炉の中に消えた。 最後に愛娘の名前を呟いて。 愛する家族の惨い最期を見せつけられた錦織孝三氏が投げ込まれる番になった。 なにやら我々に呪いの言葉を投げ掛けていたようだったが、 私は令嬢の最後の光景を心の中で反芻して悦に入っていたため聞いていないに等しかった。 もっともそんなものを真剣に聞いたとて私はなんの感傷も呼び起こさなかっただろうが。 こうして栄華を誇った錦織一族は無残な最期を遂げてこの世から文字通り消えたのだった。 余談だが、 家族三人仲良く溶けた炉から取れた金属の塊を、ジョンソン大尉は小型の拳銃に加工して持ち歩くことにしたらしい。 なんとまあ悪趣味だ。 ・・・まあ私自身、人のことをとやかく言えた身ではないが。 ちなみにジョンソン大尉から私にも功労として同じ銃を贈呈されたがはっきり言ってこんな物を使う気にはなれない。 親子三人の肉が溶け込んだ銃など、ぞっとする以外何者でもない。 私は魂や神の存在など信じてはいないが、それでも少なくともこの銃は私を「守って」はくれないだろうと思う。 しかし上官から受け賜った物だ、捨てる訳にも行かず、本部の私の部屋に飾ってある。 まあ、時々それを見つめては美しかった令嬢の最後を思い浮かべて悦に入ってるのは秘密の話にしてもらいたい。 |