君の素顔を見せて


「・・・」


珍しく君がテレビをつけてみていた。
その瞳が、一瞬だけある映画のCMの前で輝いた気がした。
「佐藤。珈琲を淹れてくれ。僕は、もう部屋へ行く」
「・・はい」
彼が出て行った後で君の見ていた映画の上映時間を新聞で確認してみた。
こういうときには、携帯がとても便利なのかもしれないと思う。

ちょっとした、気まぐれで次の日、その映画のチケットを2枚買ってみた。
「メシア?お暇ですか」
「ん?ああ・・」
「あの・・映画に行きませんか?」
ダメでもともとで誘ってみた。もしかしたらあの瞳の輝きは自分の気のせいかもしれない。
でも、そのときに帰ってきた返事は、私の予想をはるかに越えるものだった。
「・・行く」
「えっ」
「だから、僕も行く」
幸福とは、こういうことだと思った。
君と(本人は思ってないかもしれないけど)デートができるのだから。

映画館に入る前にポップコーンと彼のための珈琲を買って行った。

「はい、メシア」
「・・ありがとう」

ついでに買ったパンフにこの映画の大まかなあらすじがかれていた。
どうやらこの映画は、ジブリの宮崎監督が作ったらしい。
内容は、魔法にかかって90歳のお婆さんされてしまった18歳の少女 ソフィと泣き虫で落ち込みやすい魔法使い ハウルとの愛の物語らしい。
自分で魔法を好き勝手使うくせにやっぱり子供なんだなと、今更ながら認識した。
そんなことを思っている間に、映画が始まった。

映画の上映中、感動する場面があった。
その時、隣に座る君の顔をこっそり覗いてみた。
きっと泣いていないだろうなと、思いながら。
だけど、そこに居たのは、私が知ってる冷たくて、あまり感情を表に出さない
君ではなかった。
そこに居たのは、映画に感動して涙を流す只の子供だった。

・ ・ああ。きっとこれが君の本当の姿なのかもしれないな。
そんなことを思いながら、僕は、また視線を映画に移した。


「映画、良かったですね」
まだ涙の残る瞳を手で拭いながら、君は僕を見ようとしていた。
「うん・・」
「特にラストが良かったですね」
「・・うん」
少し君の手を握ってみた。
君の手は、冷たかったけれどとても暖かかった。
こんなことを思うのは、僕の我儘かもしれない。
僕の前でだけは、君の素顔を見せてほしい。
本当は、とても柔らかな君の素顔を。




fin.....








【ケイキョより】

先だってのHP突発閉鎖&突発再開の騒ぎにおいて、
あまねさんが「復活したらお祝いに投稿します」と約束してくださった品です。
ありがとうございました、その節はご迷惑をおかけしました。

佐藤さんと松下君のほのぼのデートです☆
可愛らしい松下に萌えです。
しかし佐藤…貴様ショタだったのか…。
あ、いや、いいんですけど。
傍目には仲の良い親子に見えたことでしょうね(笑)

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