撃たれたのは君。撃ったのは私。
 それなら、どうして、君は死なない?




 ――銃口――















 君を撃ってから、否、売ってから早数年が経とうとしているよ。
 君は笑うだろうか、今のこのざまを。
 いいや、君は笑わないだろう。決して。笑いもしないが、悲しみもしないだろう。
 それが誇り高きメシアに相応しい人物。
 そうでなかったら、私が君に幻滅してしまうだろう。

 あれから、時折夢を見るんだ。君の、否、貴方の夢を。

 貴方は血に塗れて、あちこちに銃弾を浴びていて、それでも強気な瞳はそのままに私を見つめる。
 何かを見つめているようで、何もその目には映っては居ない。
 何処か虚ろで、幼弱な貴方は、私を見ているようで見ていない。
 私は貴方に縋り付いて、ただ許しを乞う。
 媚びるみたいで、何だか浅ましい人間そのもののようだが、それは純粋な願いだと受け取って欲しい。純粋に、貴方に許して欲しいのだ。他でもない貴方に。

 「佐藤」
 鋭敏な貴方が口を開く。
 「僕をうったのは、君だ」
 脆弱な私はただそうですと泣きながら、貴方に縋り付く。否、しがみつく。
 「許してあげるよ」
 凶悪的な笑みを浮かべて、貴方はそう言う。
 夢の中の、理想の貴方。
 だからこそ、それは恐ろしく愛しい言葉を吐いてくれる。
 でも、その目に許しなど映っては居なくて、ただ何もない。虚無だ。
 私はまたお許しくださいと縋り付く。
 「許していると言ってるだろう?」
 いいや、貴方は許しては居ない。許しているのなら、許しているのなら。

 ――私になど、頬笑むわけがないからだ。

 許しているなら、私に何も言わない。
 それが貴方。
 これは夢。理想の貴方。理想の言葉。でも、其処にいる貴方は、理想ではない。
 その目は、貴方の真実だけは、私の理想ではない。
 何故なら、貴方にもまた、理想があるからだ。

 撃たれたのは貴方。撃ったのは僕。
 ならば、今の状況は?

 撃たれたのは私。撃ったのは貴方。
 貴方の永遠に許さない瞳が、私を捕らえ続けるのだ。

 そして、その鳥籠の中が意外と居心地が良いことに、私は気づき、益々夢から出られなくなり、……ついには、本物の貴方と再会することなく、夢に溺れるのだ。













――完。


ご投稿ありがとうございました!!

自分で自分を罰するというのは甘美な行為なのかもしれませんね。
本気で許されたい半分、このまま苦しんでいたい半分。
当方はマゾではありませんがその気持何となく、判ります。
そう、言葉じゃなくて感覚的に。


しかしやはり佐藤のヤツは真性マゾかもな…。

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