ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 煩い蟲を手で払う。でも、命を取ることはしない。 「……あの男、計画どおり、さっさと森に迷わねぇかなぁ」 先ほど、自分をスパルタ教育すると言ったくせに、 そんな自分に追い出された「家庭教師」を思い出す。 こんなに早く行動されるのだったら、もっと早くから素顔を見せておくべきだったかもしれない。 否、この少年に素顔などあるのだろうか、とも思わせるほど、少年は不気味だったが。 でも、何処か闇のものが闇に惹かれるように、何処か暗いものには何かを思わせるものがあった。 ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 煩いなと思いながらも、手で払う。どこにいようと蟲はいるのだから、 少年は命をとることはしないけれど。 「早く…急がないといけない、急がないと…」 何故急ぐ必要があるのか。それは自分でもわからない。 だけれど、生き急ぎたいような、そんな衝動に時たまかられるのだ。 不安?そんなものからくるほど、少年は弱くない。 子供にしては強いというか、子供じゃないし大人びているというには、それ以上な気迫がある。 小学2年生というのが信じられないくらいだ。 時折見せる断面的な部分は、少し子供だったりするが。 ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 「失敗なんかしない」 それは確かな予感。 保証するものはない、あるとすれば、少年の頭脳の良さくらいだろうか。 半ば確信に近い。 笑みを浮かべる。 ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 ぶーん。 蟲が、自分の血を吸ってきた。 其の瞬間、すかさず叩き潰す。 吸いかけの自分の血が、掌に。 ヨゴレタ。 汚れた。 浄化したい。 浄化するには? あの男の血ででも、洗い流そうか? なんて、冗談にならない冗談を思い浮かべて、少年はほくそ笑んだ。 羽音はもうしない。 この先。 邪魔するものが居たら、 今の蚊のように、少年は潰すのだろうか。 それとも…… 少年は、ほくそ笑む。 これから先、その羽音をたてるような、蟲のような、存在達に殺されるのを知らず、 今は、潰す側の立場をただ、守る。 |