佐藤さんに一日密着!





S月S日、S曜日。午前7時30分。


「おはようございます、メシア。今日はお早いですね」
松下家の別荘のキッチンのドアが開く音がして、佐藤は包丁を持ったまま振り向いた。
彼の小さな主、松下一郎が立っていた。

「ああ。それにしても、いい匂いだな」

「今、卵を焼いているところなんですよ。ほら、メシアがいつか好きだと言ってたスクランブルエッグ。今朝はそれにしました」

「そうか…それより、何か手伝えることはあるか?」

「え、いえ……特になにも」
佐藤がきょとんとした顔で松下を見つめると、彼は「そうか…」と少し寂しそうに俯いた。


午後9時半。

「えっと……あとはこれを干せば…」

「佐藤、忙しそうだな」

「えっ、メシア…?」
佐藤は、白い布団の向こうからヒョッコリ顔を覗かせる松下に、少し驚いて仰け反った。
エプロンをした彼の体が、やや向こう側に倒れる。

「何か手伝えることはないか?」

「あ、いえ…もうすぐ干し終わりますので…」

「そうか…」

「……メシア?」
佐藤は怪訝な顔で、松下の小さな背中を見送った。


午前10時。

ウィーン、ウィーン… 
佐藤の掛ける掃除機の音が、書斎中に響く。

「佐藤」

「あ、メシア。埃が立つので、ここは汚いです。本をお読みになるのでしたら、リビングへ行ってもらえます?」

「…そうか」

「はい、申し訳ありません」

午前11時。

「佐藤、綺麗な紫陽花だな」

「ええ、今年も綺麗に咲きましたね」
佐藤は花壇や庭に咲き乱れた花達に、水をやりながら松下と肩を並べた。

「ところで、佐藤。何か手伝えることは…」

「あ、いえ。特には。あとでリビングでお茶を淹れますので、先にそちらに行っててください」

「そうか…」


夕方ーー午後4時。

「お、いい匂いだな」
松下、再び匂いに釣られてキッチンへ。

「あ、はい。今日は少し奮発して牛肉のステーキにしようかと」

「そうか…もちろん、赤ワインも使うんだろ?」

「はい、そのつもりです」
佐藤はそこで、ふふっと笑った。

「メシアは本当に、赤ワインステーキがお好きですね」

「お前が最初に作ってくれたものだからな」
松下は珍しく、言い訳せずに素直に言った。

「僕の父も昔、シェフに作らせたんだが…正直、食べた心地がしなかった。味がしなかったよ」

「……メシア」
佐藤は真剣な顔で、松下を正面から見つめた。
その瞳には、どこか切なさが浮かんでいる。

「だが、それをお前が変えてくれた。食事の美味しさを、楽しさを教えてくれたのはお前だ」

「メシア…」

「だから、これからも…僕の傍で色んな事を教えてくれ」

「ええ、仰せのままに…」
松下の、少し切ない“佐藤1日密着レポ(?)”はこうして、幕を閉じたーー

おわり




「佐藤さんの一日密着取材」というお題で書いてくれるっていうから図々しくも書いてもらうことにしましたよ、ええ。
どうも、さもしい人間です。
松下仮にもお坊ちゃまだからいいもん食ってんだろうな。
でもいいものと美味しいものは違いますよね、愛情というスパイスがあってこその美味しいご飯です。
ありゃっとした!!





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