あなたとサマー・バレンタイン





7月7日。それは織姫と彦星が年に一度、会うことが許され、それにあやかり願い事が叶うとされている日。
そして時に、サマー・バレンタインと呼ばれることもある。

「見事な竹ですね」
松下邸の庭の端にある竹の前で、佐藤はそれを見上げた。
竹の茎や笹にはもう、いくつかの願い事が書かれた短冊が下がっている。

「笹の葉も綺麗ですね」
清涼感あふれる緑色の笹は、夜の風の冷たさと相まって、心地よい爽やかさを感じさせた。
佐藤は、目を一瞬だけ閉じ、そしてまた開いた。
風が彼の、そして隣に立つ松下の髪をサラサラと梳かす。

「ああ、見事な竹だろう。今年も蛙男が頑張ってくれてな」

「……奮発されたのですね」

「ああ」
佐藤がクスリと笑いながら言うと、松下は無表情のまま頷いた。
金銭感覚が一般庶民と違うのは、今更言っても仕方ないだろう。
松下は“奮発”することの意味を、きっと知らないのだ。

「…佐藤」

「はい」

「お前の願いは、何だ?」

「はい…?」
佐藤が松下を見下ろせば、彼の瞳が真っ直ぐ佐藤を見上げていた。
鋭い中にも、どこか凛々しさを感じさせる、真っ直ぐな黒い瞳…。

「そう、ですね…」

「まだお前の願い事は、短冊にないのだろう?」

「はい」

「あとで書けばいい。それより、お前の願いは何だ?」

「それは…もう叶っています」

「叶っている…?」

「はい」
佐藤はにこりと微笑むと、真っ直ぐ松下を見つめた。
細められた彼の目が、優しい顔つきをさらに穏やかに見せる。

「今、この瞬間……こうしてメシアと共に居ることが、私の願いです」

「そう、か…」
真っ直ぐに向けられた想いに、松下は珍しく口の端を上げて微笑した。

「悪く…ないな」

「そうですか… 良かったです」

おわり




私のサイトの15周年記念に強奪してきました。
サマーバレンタインなんていうのかー知らなかった。
ありがとうございました!確かに奪わせていただきました!





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