初雪舞う、季節に




穏やかな気候の中に冬の寒さを感じさせる、12月の初旬。
佐藤と松下は数時間前から、別荘の書庫に籠もっていた。

「メシア、こんな書物の中からたった一冊を探し出すなんて、やはり無理ですよ」
佐藤は積み上がった重苦しい本から顔を上げ、後ろに居る松下を振り向いた。

「佐藤、お前がそんなに諦めが早かったとはな。いいか、僕とお前が二人がかりで探し出せば、見つからないはずがない」

「…それは、私を信頼してくださってるのでしょうか?」
佐藤は再び書物の山に目を戻すと、背中越しに言葉を投げた。
先ほど佐藤の声で振り向いた松下の小さな背中が、やけに愛らしく感じる。
佐藤は思わず、緩む頬を右手で隠した。

「馬鹿を言うな」

「いつになく、つっけんどんな返答ですね」

「お前がおかしなことを言うからだろう」
松下の声音はぶっきらぼうだったが、その裏に照れ隠しがあることを佐藤は知っていた。

「しかし、今日は一段と冷え込みますね。ここで少し休憩して、ココアでも淹れてきましょうか?」

「ああ、頼む」
佐藤が話題を逸らしてくれてホッとしたのか、松下は小さく息を吐いて彼を見上げた。
立ち上がった佐藤は、「ええ」と頷くと、部屋を出ようとしたーーその時。

「……あ、メシア」

「なんだ?」
松下が、佐藤の視線を追う。
佐藤は物珍しそうに、窓の外を見つめた。

「初雪です」

「初雪、だな…」
二人の声が、同時に響く。
暖房があまり効いていない、寒いはずの部屋の中に一瞬、静寂が二人を包んだ。

「…あ、ココアを淹れてきますね」

「ああ」

「うんと熱いやつにしますね」

「ああ、頼む」
松下の言葉に、佐藤がもう一度頷く。
冷たいはずの白い雪は、空から優しく舞い降りていた。

おわり


私の誕生日にプレゼントしてくださったんですよ!
この世知辛い世の中に泣かせる話じゃあありませんか。
生きていればいいこともあるんです、これは本当のことです。





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