変わらぬ絆





それは、よく晴れた日のこと。

「ねぇ、メシア」
佐藤はコーヒーを一口、口に含むと椅子から半身を乗り出した。
テーブルを間に挟んだ彼の向かいには、松下が佐藤と同じようにコーヒーのマグに口を付け、ブラックを飲んでいる。

「何だ?」
松下がお茶受けのクッキーを、テーブルの上の皿から一枚、手に取った。
クッキーは、チョコレートとバターのマーブル色で、先日蛙男がスーパーで買って来たものだ。

「メシアはいつ頃から、私のことを意識していらっしゃるのですか?」
佐藤の(珍しく)松下の胸を責める言葉に、松下はコーヒーをあやうく吹きそうになった。

「そ、そういうお前はどうなんだ?」
松下は何とか冷静さを保って言った。

「え…?」

「僕に…、というか人に、そういう事を尋ねるということは、お前はそれなりの答えが見つかっているのだろう?」

「……私は」
松下に尋ね返されて、佐藤は軽く目を閉じた。
松下と出会った時の事が、佐藤の脳裏に蘇る。

「私は…、貴方と初めてお会いした時、『何と生意気な子供なのだろう』と思いました。今でも、そう思うことがあります。ですが……いつしか、あなたが特別に変わっていた…」

「…それは最初の“印象”だろう」

「はい…。ですが、貴方と出会わなければ、今の私はここに居ないかもしれない」
佐藤は眼を開けると、はっきりと松下を見つめた。

「それとも、今の私は嫌いですか?」
言葉とは裏腹に、しっかり正面から見つめてくる佐藤に、松下は小さく息を洩らした。

「いや、嫌いじゃない」
松下は、どこか心地よさを感じた。

「では、メシアの答えは…?」

「いいだろう、答えよう。僕は初めて会った時から、お前を宇宙人か何かだと思っていた。僕に屈するわけでもなく、かといって必要以上に崇めることもない……そんなお前が“気になっていた”」

「それで、今は?」
佐藤は、ごくりと唾を呑みこんだ。

「嫌な奴と、僕が一緒に居るわけないだろう。嫌なら、とっくに追いだしているさ」

「そうですか…」
佐藤は、どこか安堵するように息を吐きだした。

「佐藤」

「はい」

「お前に出会えてよかった。これからもよろしく頼む」

「私もあなたに会えてよかった。今の私は、自分でも心地よいです。こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
二人は立ち上がると、微笑みながら握手を交わした。
その絆は、コーヒーとクッキーのように変わることなく、きっと永遠にーー


おわり




蜜柑様のサイトで5555のキリ番を踏んだのでリクエスト小説書いてもらえました!
こちらがリクエストしたお題は「初めての日」でした。
抽象的なお題を出してしまったから嫌われるかと思いきや懐の広さでこんな素敵な話を作ってくださいました。
出会ったばかりの松下はホントクソガキですよね、千年王国を読んだ友人が「私ならこのガキ庭に埋めてる」と言っただけはある。
初めてが最悪でもやがて良好な関係を築いてくれたら本当にステキなことです。
佐藤さんには幸せになってもらいたいのです。





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