Peace in the world 蛙男さん日記

三月二十一日 晴れ ■いつものことではありますが■
こんにちは。

メシアの忠実な腹心にして第一使徒の蛙男です。
なんか、佐藤の書いてる日記が停滞していることに不満を抱かれた為か何かは知りませんが、
ピンチヒッターとしてこの私が日記を書かされる羽目になりました。
正直に言えば現代人にも読みやすいような文章を書くのは苦手なので、
努力はしますが或いは何かと不手際もあるかと思います、
そこはどうかご了承いただきたい所存です。
第一、これもいつまで続くやら…。

さておき、
私は水生生物の元素を取り入れた生き物なので生存に欠かせないものは水です、
それもなるべくだったら都会のカルキ臭い水ではなく天然に近いものが体に良いのです。
しかし現在メシアが仮住まいとしているのは残念ながら東京郊外なのでここは致し方なく、
もっぱら販売されている天然水とやらで我慢しています。
まぁ、それも下手に安売りのものを買うと、ただの水道水をフィルターやらに通して臭いを消しただけの偽者だったりするんですよ。
水には敏感なのでそういうことは良くわかります。
やれ、あこぎな。

さて、そんな私がいつも通り水を補給しようと今日の夕刻、水を保管している冷蔵庫がある台所へ立ち寄ったときのことです。

そこではいつも通り佐藤の奴が夕食の支度をしていたのですがどうも様子が変なことに気がつきました。
まな板の上に切りかけの野菜を乗せたまま、
包丁を持った手が止まっているんです。
そしてなにやらうつむいてブツブツ言ってます。

こいつ、考え事をしているとつい口に出してしまうタイプなのかと思い、
ちょっとその独り言に聞き耳を立ててみました。

「…3ヶ月経つのに…もう3ヶ月になるのに…効かない…一向に効かない…やはりあれは人間とは違うのか畜生…下等生物のくせに…畜生畜生…今までならどんなに長くても3ヶ月以内には…やはりここは事故に見せかけて…なにか不自然でない方法を…」

斜め後ろから僅かに見えたその目は、正気の人間のそれではありませんでした。
本能的な恐怖を感じた私の体は反射的に後退りしていたようです。
つい、後ろにあった戸棚に僅かにぶつかって音を立ててしまいました。

その物音に驚いたのは私だけではありません、佐藤の奴もハッとして物凄い勢いで振り返りました。

一瞬、生存本能が「殺られる前に殺れ!!」と訴えかけてきたので身構えた私ですが、
意外なことに予想に反して佐藤の奴は私の姿を見てニッコリと微笑えんだではありませんか。

「ビックリしたなぁ、もう、蛙男さんいつからいらっしゃったんですか?おどかさないでくださいよ〜」

邪気のない笑みを満面に浮かべながら奴が言いました。
先ほどの狂気を宿した目はどこへやら。
とりあえず「ごめんね」と一言残してその場は足早に逃げました。

なんだか、今日は決して見てはならないものを見てしまった気分です。
余談ですがその日の夕食は箸が進まなかったのは言うまでもありません。


三月二十二日 どんより ■しつこい勧誘シャットアウト!■
今日はメシアのお言いつけでちょっと外に出ていました。
家の前までたどり着いたらなんか門のところから聖書のような本を抱えた見知らぬ人間の男女二人が転がるように飛び出してきました。
男「…あ、あ、悪魔だ…あいつは悪魔だ!!」
女「あ…あんな汚らわしい言葉で神を罵倒するなんて…イヤッ!怖い!!」
二人はそんなことを言いながらわなわなと震え、胸の前で十字を切ったりしつつ、顔面蒼白のままこけつまろびつ逃げていきました。
一体何が?
門外から恐る恐る中を覗くと今扉を閉めようとしていた佐藤と目が合いました。
「あ、蛙男さん、お帰りなさい」
ただいま。ときに今の男女は?と聞くと。
「勧誘って嫌ですよねー、甘い顔するとしつこく食い下がって来るんだもん、だからちょっと悪いかなとは思ったけど厳しいこと言ちゃいました(笑)」具体的にどう厳しいことを言ったのかは知らない方がいいと思いましたから聞いてません。


三月二十三日 暖かい ■しつこい勧誘にも慈悲を!!■
今日もメシアのお言いつけでちょっと外に出ていました。
家の前までたどり着いたらなんか門のところにうずくまった人影があります。膝を抱えた見知らぬ人間の男です、なにやらブツブツ言ってます。
男「…ヒ…ヒヒ…俺は生きている価値が無い、生きるに値しない、どうせこのまま出世の望みも無い、回る家々で疎まれ蔑まれ惨めな一生を終えるんだ、彼女もいないていうか現世中に出来る気配すらない、それに現実の女はアニメ声じゃないしアニメみたいに目が大きくないし何でも言うこと聞いてくれない、どじっ娘の萌えな彼女とねこみみと妹と毎朝起こしに来てくれる世話焼きの幼馴染は妄想の世界とハードディスクの中にしか存在しないんだ、現実は嫌いだ、現実は怖い、もう死のう、今すぐ死のう…」
男はそんなことを言いながらわなわなと震え、滂沱の涙を流しつつ、ポケットから取り出したバタフライナイフで喉を切裂き自決してしまいました。
一体何が?
門外から恐る恐る中を覗くと今扉を閉めようとしていた佐藤と目が合いました。
「あ、蛙男さん、お帰りなさい」
ただいま。ときに今の男は?と聞くと。
「勧誘って嫌ですよねー、甘い顔するとしつこく食い下がって来るんだもん、だからちょっと悪いかなとは思ったけど厳しいこと言ちゃいました(笑)」具体的にどう厳しいことを言ったのかは知らない方がいいと思いましたから聞いてません。
ちなみに死体もそのままです。


三月二十四日 小雨 ■神は全てお見通し■
昨日はあの後、出来る限り関わりたくなかったので家の前で幻想の世界へと自ら旅立った哀れなセールスマン(二次ヲタ)の死体には一切触れないで普通に生活してたらそのうちに通行人のものと思しき絹を引き裂く悲鳴が聞こえて少ししたらパトカーのサイレンも聞こえました。
流石に家の前とのこともあり、刑事が事情を聞きにウチにも来ましたけど自殺したのは見た目にも明らかなので多分黙っている限り誰かが具体的に法的で罰せられることは無いでしょう、軽い2.3の質問で終わりました。
佐藤「誰だか知らないけど人の家の前で自殺するなんて、まったく縁起が悪いですねぇ」
こいつ忘れきってます、でも出来る限り関わりたくなかったのでそのまま黙っていました。
まぁ二次元の美少女にしか興味を持てず現実と妄想の区別がつかない現代には掃いて捨てるほどいる心底生産性のない人種のようだったから別にいいかもしれませんけどね。
こうして日常は割りと平和に過ぎていきます。
ていうか平和に過ごす方法を私は最近見出せた気がします。